お酒を飲むと酔っ払って気持ちよくなります。しかし、飲みすぎると普段では決してしない行動をすることがあります。

また、二日酔いになってしまうと頭痛やめまいに襲われます。朝起きた時に頭が割れそうなくらい痛かったり、起き上がった時に頭がふらついたりした経験はないでしょうか。

これらの症状は、アルコールが体から抜けたり、二日酔いが改善したりすると解消するので、お酒を飲んだことによる影響であることは明らかです。これらを繰り返すことによる悪影響はないのでしょうか。

ここでは、お酒の飲み過ぎや二日酔いが脳に与える影響について説明していきます。

酔っ払うと脳にどのような影響が現れるか

お酒を飲むと体に様々な影響が現れます。具体的には、足元がふらついたり、体調が悪くなったりします。あなたの周囲に「この人お酒を飲むと別人のようになるな」という人もいると思います。

そこでまずは、お酒を飲むと脳にどのような影響が現れるかについて解説します。

理性が失われて本能が現れる

飲み会の席で、「ここだけの話・・・」という会話をしたことはないでしょうか。私は友人が浮気をしている話や、秘密で付き合っている人の話を飲み会の席でしてしまったことがあります。

私はお酒を飲んでいないときに、このような話をすることはほとんどありません。しかし、お酒を飲むと「この話をするのはよくないかな・・・まあいいか」と思って話してしまうことがあります。

これはお酒を飲むことによ脳の機能が麻痺してしまうことによります。

お酒が体の中に入って脳に移動すると、まず大脳に作用します。大脳は脳全体の約80%を占める重要な部位です。そして、大脳の中には理性や本能を管理している部分があります。

理性を管理している部分は大脳皮質と呼ばれます。大脳皮質の中でも、頭の前側にある前頭葉が理性の中心の役割を果たしています。

一方で、本能を管理している部分を大脳辺縁系と呼ばれます。

お酒を飲んでいない時は、大脳皮質が大脳辺縁系をしっかりと管理しているので、「本能では話したいけど理性が話してはいけない」と冷静に判断しているのです。

しかしお酒を飲むことで、この管理がゆるくなってしまいます。その結果、本能が前面に出てしまい、まあいいだろうと考えてしまうようになるのです。

お酒を飲むと急に泣き出したり、怒り出したりする人がいないでしょうか。いわゆる泣き上戸や怒り上戸と呼ばれる人たちです。これらも、お酒の影響で理性が抑えられたことにより本能が現れた状態です。

睡眠のリズムが狂ってしまい、中途覚醒する

寝るためにお酒を飲む人がいると思います。実際に私もお酒を飲んでいると眠気が襲ってきて、そのまま椅子に座ったまま寝てしまうこともあります。

確かにお酒を飲むと眠くなりますが、実は睡眠に対してお酒は悪影響を与えています

眠りには浅い眠りと深い眠りがあります。浅い眠りのことを「レム睡眠」、深い眠りのことを「ノンレム睡眠」と呼びます。そして通常の睡眠であれば、レム睡眠とノンレム睡眠が規則的に繰り返されます。

そこでお酒をたくさん飲むと、レム睡眠が減ることが知られています。すなわち深い眠りが増えます。

お酒を飲むと寝つきがよくなったような気がしますが、それはレム睡眠が増えるためです。そのため寝酒をする人がいるのです。

これだけであれば、お酒は眠りが深くなるので睡眠にいい影響を与えるような気がします。しかし、レム睡眠が減ることで本来は規則正しい睡眠のリズムが狂ってしまいます

引用:アルコールを飲んでも睡眠を阻害しない2つの方法(一部改変)

そして、お酒による睡眠への影響はこれだけではありません。

アルコールが体に吸収されると分解されてアセトアルデヒドという物質に変わります。この物質が体に溜まると吐き気などの二日酔いの原因となります。

アセトアルデヒドは体に対して様々な作用をします。その中の一つに、日中に体を動かしているときに働く交感神経を刺激する作用があります。

逆に夜寝ている時は、交感神経の働きは少なく、体を休めるための副交感神経が主に働いています。

アセトアルデヒドの量が増えると、寝ているにもかかわらず交感神経(体を興奮させる神経)が刺激されてしまい、夜中に目が覚めてしまいます

私はお酒を飲まないときは朝までぐっすり寝ることが多いです。しかし、缶ビールを1本でも飲むと夜中に必ず一回は起きます。起きたときはトイレに行きたいわけでもありません。この中途覚醒は、アセトアルデヒドによって交感神経が刺激されたことによる影響です。

筋力が低下する

お酒を飲みすぎると千鳥足になったり、横たわって動けなくなったりすることがあります。これはお酒を飲むことで、脳の中の運動に関わる小脳が麻痺するからです。小脳が麻痺することで立ち上がれなくなったり、筋力が低下したりするのです。

また、この筋力低下は手足の筋肉だけでなく、喉の筋肉にも現れます

アルコールによって喉の筋肉が緩むと、舌が垂れてきて、空気の通り道を塞いでしまいます。その結果、イビキが大きくなったり、一時的に呼吸が止まったりします。この寝ている間に呼吸が止まってしまう状態のことを、医学的には「睡眠時無呼吸症候群」と呼びます。

睡眠時無呼吸症候群は肥満の人に多いと言われています。脂肪が増えすぎると空気の通り道が狭くなってしまい、呼吸が止まってしまうのです。お酒を飲んで舌が垂れてくると、同じような状態になってしまい、呼吸が止まってしまうのです。

引用:NPO法人ヘルスケアネットワーク(OCHIS)

なお呼吸が止まっても、しばらくすると苦しくなるので、無意識のうちに呼吸が始まります。しかし、これを繰り返すと疲れが取りきれず、朝起きても体が怠かったり、日中に異常な眠気に襲われたりします。

このようにアルコールを飲むと、体の動きだけでなく睡眠にも影響を及ぼします。

精神的に不安定になり、うつ状態になる

お酒を飲みすぎると精神面に影響を与えてしまい、うつ状態になってしまうことがあります。

アルコールは幸福ホルモンとも呼ばれているセロトニンの量を減らしてしまうことが知られています。セロトニンは気持ちを落ち着かせて、明るくしてくれる物質です。

セロトニンは体の中で作られていますが、アルコールを飲むとセロトニンの原料が少なくなってしまい、セロトニンの生成量が減ってしまいます

実際にうつ病患者さんに使用されている薬にも、セロトニンの量を増やす薬があります。例えばジェイゾロフト、パキシル、サインバルタなどの薬は、脳内のセロトニンの量を増やすことでうつ病治療に使われています。

このようにお酒を飲むと脳内のセロトニンの量が減ってしまい、うつ状態になることがあります

ビタミンB1が欠乏することによる脳への影響

アルコールとアセトアルデヒドの分解には様々な成分が関わりますが、その中の一つにビタミンB1があります。

ビタミンB1は主に糖分からエネルギーを作り出す働きがありますが、アルコールの分解にも関わっています。

アルコールを飲みすぎるとビタミンB1がどんどん消費されてしまいます。そのような状態が続くとビタミンB1が欠乏してしまいます。ビタミンB1が欠乏したときに起きる問題で、代表的なものが「ウェルニッケ脳症」と呼ばれる病気です。

ウェルニッケ脳症になると眼球の動きに影響が出たり、意識障害が起きたりします。最悪の場合、昏睡状態になることもあります。

お酒を飲まない人が普通の食生活をしているとウェルニッケ脳症になることはまずありません。しかし、飲酒によるビタミンB1の消費や、食事量の減少が続くことでこのような症状が起きてしまうのです。

また、ビタミンB1不足が脳に与える別の影響として「コルサコフ症候群」が知られています。

コルサコフ症候群では、脳の中でも記憶に関わる海馬が萎縮してしまうのが特徴です。高齢者に発症する認知症も、海馬が萎縮し、脳細胞が減ることで起きています。

認知症を発症した人と話すと、以前話した内容を全く覚えていないことが多いです。

私も薬剤師として認知症患者さんと話をする機会があります。認知症患者さんの場合は、新たに飲み始めることになった薬や、薬の内容が変更になったことを説明しても、5分後に確認しても覚えていないことがほとんどです。

このように、ビタミンB1不足により海馬が萎縮してしまい、認知症を発症してしまう可能性があります。

アルコールを摂取しすぎると、脳に対して悪影響が現れてしまうので注意が必要です。

二日酔いが脳にどのような影響を与えるのか

二日酔いのときは様々な不快な症状が現れます。これらの症状の原因は何でしょうか。また、脳に対してはどのような影響を与えているのでしょうか。

これには、以下のようなものがあります。

頭痛

頭痛は二日酔いの症状の中でも代表的なものです。頭痛は以下のようにいろいろな機序で起きます。

・血管が神経を圧迫する

アセトアルデヒドには血管を拡張する作用があります。頭の血管がアセトアルデヒドによって拡張すると、血管の周りの神経が圧迫されます。その結果、痛みを感じるようになってしまいます。

・脳のむくみが神経を圧迫する

アセトアルデヒドによって血管が拡張すると、血管の中から周囲の脳に水分が漏れ出るようになります。その結果、脳内の水分量が増えてしまい、脳がむくんでしまいます。この脳のむくみ(膨らみ)が周囲の神経を圧迫することで痛みを感じるようになります。

・痛みの原因物質の量が増える

アセトアルデヒドが蓄積すると、血管の中に痛みを感じさせる物質が発生してしまいます。この物質はプロスタグランジンと呼ばれます。プロスタグランジン(痛み物質)が増えることで痛みがさらに強くなってしまいます。

プロスタグランジンは二日酔いの頭痛以外にも腰痛、歯痛などにも関わっています。病院を受診した時に処方される痛み止めの多くは、プロスタグランジンが生成するのを抑える薬です。

このように二日酔いの頭痛は、脳に対して様々な影響を与えることによって生じています

脳梗塞のリスクを高める

二日酔いの時は極度の脱水状態です。これは、アルコールに尿の量を増やす作用があるためです。そして、体が脱水状態の時は、血液はドロドロになっています。

カレーのルーを鍋で温めた経験は皆さんあると思います。そのまま温めるだけではルーはドロドロしています。そこに水を加えるとサラサラになって混ぜやすくなると思います。

同じようなことが血液にも当てはまります。水分量が少ないと血液はドロドロの状態になってしまいます。

血液がドロドロになると、血液中の成分同士が繋がりやすくなってしまい、塊ができてしまうことがあります。その塊が脳で詰まってしまうと脳梗塞になってしまいます

血の塊ができてしまうと、血流が悪くなり、脳への酸素の運搬が悪くなります。この時は脳が貧血状態(脳貧血)になっているのです。

脳梗塞になってしまうと最悪の場合、命が危うくなります。そして助かっても麻痺が残ったり、寝たきりになったりと、生活はかなり不自由なものになってしまいます。

集中力や記憶力などを低下させる

二日酔いの時は明らかに体に悪い影響が出ているのを感じると思います。

私は、二日酔いで仕事に行く時は明らかに集中できていないのを感じますし、直前に言われたことを覚えていなかったりします。実際に、イギリスのバース大学のクレイグ・ガン教授は、二日酔いの時は記憶力、集中力などが低下してしまうことを論文で報告しています(引用:Addiction 2018 Aug 25)。

二日酔いの時は体に力が入らず、何も考える気になりません。もちろん、勉強したり、本を読む気にもならないです。

このように二日酔いの時は集中力や記憶力が明らかに低下します

脳への悪影響を予防する方法

お酒を飲んで何も対策をしなければ上記のような症状が現れるリスクが高いですが、対策をとることでリスクを減らすことができます。

続いて、二日酔いによる脳への悪影響を少しでも減らすための方法を紹介します。

水分の摂取

先ほども説明したように、お酒を飲んだ翌日は脱水状態です。そこで、水分を摂取することで脱水を予防、改善することができます

お酒を飲んでいる時は、お酒だけを飲むのではなく、途中で水やお茶を飲むことで脱水を予防できます。

お酒を飲んだ後は、飲んでいる途中にトイレに行くことで水分が失われています。寝ている間にも汗で水分は失われるので、寝る前に水分を補給しておくのも脱水予防に効果的です。

そして、夜間に失われた水分を補うためにも、目覚めた後も積極的に水分を摂るのがよいでしょう。

ビタミンB1の摂取

アルコールとアセトアルデヒドの分解に必要なのは水だけではありません。様々な成分が必要になりますが、その中の一つにビタミンB1があります。

先ほど説明したウェルニッケ脳症やコルサコフ症候群は、ビタミンB1不足が慢性的に続くことにより生じます

お酒を飲む人の中には、食事をあまり摂らずにお酒だけを飲むような人もいますが、この状態は大変危険です。

本来ビタミンは食事から摂取しますが、食事をしないとビタミンが補充されません。しかも、お酒を飲むとビタミンB1が消費されます。このようなことを繰り返すことで、体内のビタミンB1は枯渇してしまうのです。

そこで定期的なビタミンB1の摂取が大切になります。特に食事内容が偏っている人は、サプリメントからビタミンB1を摂取することで、ビタミンB1の欠乏を予防することができます。

まとめ

お酒の飲み過ぎや二日酔いが脳にどのような影響を与えるかについて説明してきました。

お酒を飲みすぎると脳の様々な機能を麻痺させ、理性が失われたり、筋力が低下したりしてしまいます。

睡眠の質を下げてしまうことや、精神的に不安定になることもあるので、アルコールの飲み過ぎには注意が必要です。

二日酔いになると頭痛が起きたり、集中力や記憶力が低下したりしてしまいます。また、命に関わる脳梗塞を発症する可能性もあります。

アルコール、アセトアルデヒドの分解のために体内のビタミンB1が消費されてしまうと、ウェルニッケ脳症、コルサコフ症候群などの脳への悪影響が現れてしまいます。

このような状態にならないためにも、水分を摂取したり、ビタミンB1を定期的に摂取したりすることで、予防をすることが大切です。