私はお酒を飲んでいるときに、飲み過ぎで気持ち悪くなったり、トイレの回数が増えたりすることはあっても、それ以外で体に異変を感じることはほとんどありません。
しかし、トイレに行ったときや、居酒屋からの帰り道、また布団に入って寝る直前などに、自分の脈が異常に速くなっているのを感じることがあります。私の周りの人に話を聞くと、同じような経験をしたことがある人がたくさんいました。
私はお酒を飲むと、目覚めが早くなることが多いです。朝早い時間に起きたときに脈拍が異常に速いと、お酒の飲み過ぎで心臓に何かあったのではと思うこともあります。
ここでは、「お酒を飲むと心臓にどのような影響が現れるか」「二日酔いのときに心臓にどのような影響が出ているか」「どのようなことに注意する必要があるか」について説明します。
もくじ
お酒を飲んでいるときに、どのような影響が心臓に現れるか
アルコールは体の中に入ると、肝臓で分解されます。この分解によって、アルコールは二日酔いの原因物質の1つのアセトアルデヒドになります。
そして、心拍数が増加するのは、アルコールとアセトアルデヒドが関わっています。
アルコールによる心臓への影響
心臓の動きは、体を興奮させる作用がある交感神経と、体を休める作用がある副交感神経のバランスで調節されています。
アルコールはこれらのうち、交感神経を刺激する作用があります。交感神経が刺激されると、心臓の動きが活発になり、心拍数が上がります。
アセトアルデヒドによる心臓への影響
また、アセトアルデヒドには、血管に働きかけて、血管を広げる作用があります。血管が広がると血圧が下がります。
血圧が下がると、人間の体は血圧を維持しようとするので、血圧を上げようとします。そのときに働くのが心臓です。心臓の動きを速くすることで、血圧を上げようとするのです。その結果、心拍数が増えます。
このように、アセトアルデヒドの影響で心拍数は上がります。
お酒を飲んだときの心拍数の変動
下に、実際に私がお酒を飲んでいるときの心拍数の変化を載せています。
この日は17:59にビールを飲み始めて、350mL飲む度に心拍数を測りました。ビールを飲み始めると、心拍数は上がっているのがわかると思います。最終的に1本350mLのビールを4本飲んだ結果、飲んでいる間はずっと心拍数は上がっている状態でした。
心拍数の正常値は1分間に60〜80回です。80回を超えると頻脈と言われます。今回の検証では、頻脈にはなりませんでしたが、飲み始める前よりは増えていました。
私は病院で働いていて、頻脈の患者さんに接することがあります。頻脈の患者さんは、脈拍数が120を超えていることもあります。このようなときは、息苦しさを訴えることも珍しくありません。
以上のように、お酒を飲むと、アルコールとアセトアルデヒドの影響で、心拍数が上がります。
二日酔いで目が覚めたときに、どのような影響が心臓に出ているか
お酒を飲むと脈拍が上がることについて説明しました。では、お酒を飲んだ翌日に二日酔いになっているときは、心臓にどのような影響が出ているのでしょうか。
二日酔いのときは、体の中にアセトアルデヒドが溜まっている状態です。したがって、アセトアルデヒドの影響で血管が広がりやすいです。そのため、二日酔いのときも心拍数が上がっていることが多いです。
下に、お酒を多く飲んだ場合と、少量飲んだ場合の、24時間の心拍数の変化を調査した結果を示します。お酒を飲んだ翌日は、お酒を多く飲んだときの心拍数が多いのがわかります。
引用:Am J Hypertens. 2002, Feb(15), 125を改変
必ずしも心臓に異常があるとは限らない
ひどい二日酔いになると、朝起きたときに「胸が苦しい」「胸が痛い」などの違和感があることがあります。
実は、心臓に異常があるかの判断は、症状だけでは難しいです。そのような場合は、心臓に異常があるのではなく、食道が炎症を起こしていることがあります。
私の知り合いの医師に話を聞くと、以下のような話をしてくれました。
食道は心臓の裏側にある。場所が近いので、どちらに痛みがあるかを症状だけで判断することは難しい。食道が炎症を起こしていても、痛みを感じたり、息苦しさを感じたりする。
実際に心臓が痛みを感じることはある。例えば、心臓の細い血管(冠動脈)に血の塊が詰まってしまう心筋梗塞や、冠動脈が細くなってしまう狭心症では、心臓に痛みを感じる。
これらの症状は、基本的にはお酒を飲むかどうかは関係なく発症する。したがって、お酒を飲んだ後や、次の日だけ症状が出るのであれば、心臓ではなく食道に影響が出ている可能性が高いだろう。
このように、「胸に違和感がある=心臓に異常がある」とは限らないことは覚えておく必要があるでしょう。
心拍数が増えることで、問題が起きるか
お酒を飲んだ後や、二日酔いの日の朝は、普段よりも心拍数が増えます。しかし、心拍数が増えること自体がいきなり問題になることはほとんどありません。なぜなら、心拍数が増えるのは一時的なものだからです。
しかし、お酒を飲んで一時的とはいえ心拍数が上がることで、問題が起きることが稀にあります。具体的には以下の2点が問題になる可能性があります。
- 期外収縮
- 不整脈
続いて、これらについて説明します。
心臓の動くタイミングがずれる(期外収縮)
人間の心臓は、基本的には規則正しく動いています。しかし何かの拍子で、動きのタイミングが狂ってしまうことがあります。これを医学的には期外収縮と呼びます。
期外収縮とは、本来であれば一定の間隔で動いている心臓が、動くタイミングがずれてしまうことです。その結果、息切れがしたり、動悸がしたりすることがあります。
下に、期外収縮の概念図を示しています。
人によって異なりますが、期外収縮の起きる頻度は、基本的にはかなり低いです。そして、そのほとんどの場合は自覚症状もありません。
そこで、心拍数が増えると、期外収縮が起きる可能性は高くなります。問題が起きることはほとんどありませんが、期外収縮が起きやすくなっていることは間違いありません。
心臓の動きのリズムが乱れる(不整脈)
不整脈とは、心臓の動きのリズムが乱れている状態のことを言います。実は、心臓にとって問題になるのは、心臓の動きが速くなることよりも、心臓の動きのリズムが乱れることです。
心臓の動きが正常であれば、心臓が規則正しく動くことで、全身に血液をスムーズに送り出しています。しかし、心臓の動きのリズムが狂うと、血液の流れが少し乱れてしまいます。そうすると、血液の中に、血の塊ができやすくなってしまいます。
この血の塊が心臓の細い血管に詰まってしまうと心筋梗塞に、脳の血管に詰まってしまうと脳梗塞になります。これらの病気は、最悪の場合は命に関わるような状態になることもあります。
心臓の動きが正常な人は、お酒を飲んで心拍数が増えても、急に不整脈になることはまずありません。しかし、元々不整脈の人は、心拍数が増えることで、心臓の動きのリズムに影響が出やすくなります。
その結果、血の塊ができやすくなるので、病院で不整脈と言われたことがある人は、お酒の飲み過ぎには注意する必要があります。
二日酔いのときに注意する必要があること
二日酔いのときに、心拍数が上がっているのは、体に残っているアルコールやアセトアルデヒドの影響です。したがって、これらが体の中からなくなれば、自然と症状は改善します。
お酒を飲んでいるときに、心臓がバクバクしても、その症状が何日も続くことはありません。アルコールやアセトアルデヒドが分解されて体からなくなれば、症状は改善します。
入浴は、お酒を飲んだあとだけでなく、二日酔いのときも避けた方がよい
お酒を飲むと、心臓の動きが速くなることを説明しました。そして、そのようなときはお風呂に入るのは控えたほうがよいです。
お風呂に入ると、全身が温まり、全身の血管が広がります。そうなると、心臓の動きはさらに速くなります。
3章で説明したように、心拍数が上がることで期外収縮の回数が増えたり、不整脈の影響が出やすくなったりします。
心拍数が上がったことにより、実際に胸が苦しくなったり、心筋梗塞や脳梗塞が起きたりすることはほとんどありません。しかし、これらが起きる可能性が高くなるのは間違いないです。
下に、私が実際にお酒を飲んだあとにお風呂に入ったときの心拍数の変化を示しています。
お風呂に入る前の時点で、お酒を飲んだ影響で心拍数が高くなっています。そして、お風呂に入るとどちらの場合も心拍数が上がっています。
このとき、お酒を飲んでいる方は、入浴中の心拍数が100になっており、頻脈の状態でした。
なお、お風呂から出た後も、心拍数はなかなか下がりませんでした。すぐに横になっていましたが、胸がドキドキした状態が続いていました。
そして、二日酔いのときも同じようなことが言えます。二日酔いのときは、体の中に血管を広げる作用があるアセトアルデヒドが残っています。お風呂に入ると血管が広がることによって、結果的に心拍数が上がります。
また、心拍数が上がって血流がよくなることによって、気持ち悪くなることがあります。これは、血流がよくなることで、アルコールが体内を循環しやすくなるためです。
アルコールの循環がよくなると、酔いが回りやすくなります。急激に酔いが回ることで、吐き気に襲われることがあるので注意が必要です。
私の友人は、大量にお酒を飲んだあとにお風呂に入り、気分が悪くなってしまい、激しく嘔吐をしていました。このように、お風呂に入って心臓の動きが活発になると、血流がよくなり、吐き気を感じるようになることがあります。
このように、お酒を飲んだ後や、二日酔いのときは、入浴は避けた方がよいです。どうしても寝る前や出かける前に汗を流す必要があれば、ぬるめのシャワーを浴びるくらいにしておきましょう。
まとめ
ここでは、「お酒を飲むと心臓にどのような影響が現れるか」「二日酔いのときに心臓にどのような影響が出ているか」「どのようなことに注意する必要があるか」について説明しました。
お酒を飲むと、アルコールとアセトアルデヒドの影響で、心拍数が増えます。
ほとんどの場合は心拍数が増えても問題が起きることはありません。しかし、病院で不整脈と診断されたことがある人は、心拍数が増えることで、心臓の動きのリズムが狂いやすくなります。
また、お酒を飲んだあとや二日酔いのときに入浴すると、心拍数がさらに上がってしまいます。期外収縮や不整脈が起きやすくなるので、汗を流すのであればシャワーで代用する方がよいでしょう。