お酒を飲みすぎるといつか体調を崩してしまうことは、誰でも想像できると思います。しかし実際には、二日酔いになってもすぐに回復し、元気になるとまたお酒を飲んでしまう人が多いでしょう。
私は飲み会で激しい二日酔いになってしまい、その日から2日ほど胸に何かが引っかかったような感じがあった経験があります。
今までにない症状だったので、働いている病院の医師に「胸に変な感じがあるんですけど、これって悪い病気ですか?」と質問しました。しかしそのときは「絶対に大丈夫」と軽く返答されてしまいました。実際、その後は症状がなくなり、何も問題になっていません。
しかし、このようなことを繰り返していると、いつか大きな問題が起きるのではと私は感じています。実際にお酒を飲みすぎて、最終的には体を壊してしまったり、大きな病気をしてしまったりした人もいるのではないでしょうか。
ここでは、二日酔いになるほどの飲酒を繰り返すことで起きる可能性がある病気について説明します。
もくじ
毎日二日酔いを繰り返すことで、重篤な病気になる可能性がある
二日酔いになっても、基本的にはその日の間に体調は元に戻ります。私の場合は、元気になってしまうと、二日酔いのときのしんどさを忘れてしまって、また飲み過ぎてしまいます。
二日酔いを何度も繰り返しても、大きな問題が起きることは基本的にはありません。しかし、このようなことを繰り返していると、徐々に体の中にダメージが蓄積していきます。そして最悪の場合には、重篤な病気になってしまうこともあります。
肝臓の病気
日頃からお酒を飲んでいる人の中には、健康診断で肝機能の数値が高くて、医師から指導を受けたことがある人もいると思います。
私の知り合いには、毎回のように健康診断で肝機能の数値を指摘されていた人がいます。その人は最近では、健康診断の2週間ほど前から禁酒をして、なんとか健康診断を乗り切っていると言っていました。
アルコールは肝臓で分解されることを知っている人は多いと思います。そのため、アルコールの摂取量が多い日が続くと、肝臓の負担が大きくなってしまい、肝臓にダメージが蓄積してしまいます。
この状態を繰り返すと、肝臓の機能がどんどん失われてしまいます。
実は、肝臓はある程度ダメージを負っても、正常な部分で機能をまかなえるようになっています。私の知っている肝臓がんの方は、手術で肝臓を1/3程度切除しましたが、普通に生活をすることができています。
しかし、この肝臓のダメージもある程度以上になると、回復するのが難しくなります。その結果、肝臓が硬くなってしまう肝硬変になってしまい、最終的には肝臓がんになることもあります。
肝臓の機能が低下してくると、アルコールやアセトアルデヒドの分解がされにくくなるので、あまりお酒が飲めなくなるのが自然です。実際に患者さんの話を聞いても「肝臓を悪くしてから飲めなくなった」と言われることはあります。
しかし、実際はそうではない人も多くいるのが現実です。医師の話では、肝硬変になっても、大量のお酒を飲み続けている人は多いそうです。そのような人のなかには、体がしんどくなって病院に搬送される直前までお酒を飲んでいた人もいたそうです。
また、お酒に対する強さと、お酒を飲んだときに肝臓にかかる負担については、私が調べた限りでは、詳しく研究されているものはありませんでした。身近な医師にも質問してみましたが、以下のような返答でした。
二日酔いの原因物質のアセトアルデヒドは体にとって毒性がある。したがって、アセトアルデヒドが速く分解されるお酒に強い人の方が、体に与える悪い影響は少ないかもしれない。しかし、あくまでこれは仮説なので、はっきりとしたことはわからない。
そもそも、お酒に対して強いか弱いかを、簡単に分けることができないだろう。
そして、お酒以外にも、食事の内容よって肝機能が悪化することもある。お酒をたくさん飲む人は、食生活が乱れている人が多い。したがって、お酒だけの影響を調べることは難しいと思う。
このように、アルコールが体に及ぼす影響はいろいろな要素が関わっています。また、同じ量のお酒を飲んでも、身体に残る影響は、人によって全然違います。
がん(悪性腫瘍)
お酒を飲みすぎると肝臓がんになる可能性があることを説明しましたが、実はアルコールを飲むことで、肝臓がん以外に発現率が上がるがんがあります。具体的には以下の4つのがんはアルコールとの因果関係があると言われています。
- 口腔・咽頭がん
- 食道がん
- 大腸がん
- 乳がん
続いてそれぞれのがんについて説明していきます。
まず、口腔・咽頭がんについては、日常的にお酒を飲んでいる人は、全く飲まない人と比べてリスクが増加します。
引用:多目的コホート研究(JPHC Study)喫煙、飲酒と口腔・咽頭がん罹患リスクについてを一部改変
食道がんは、毎日お酒を飲む人は全く飲まない人と比べて食道がんになるリスクが高くなります。なお、飲酒量が多くなるほどリスクが高くなる傾向もみられます。
引用:多目的コホート研究(JPHC Study)飲酒と食道がんの発生率との関係についてを一部改変
大腸がんは男性において、飲酒量が増えると発生率が上がることがわかっています。
引用:多目的コホート研究(JPHC Study)お酒・たばこと大腸がんの関連についてを一部改変
なお、女性は飲酒量が増えても大腸がんになりやすいという結果は出なかったようです。しかし、上記の研究を行っている研究グループは「女性には1日平均1合以上飲酒する人がほとんどいないためで、大量飲酒すれば男性の結果と同様であると考えられます」と分析しています。
最後に、乳がんについてです。乳がんは週にエタノール換算で150g(日本酒1合)より多く飲む人は、乳がんの罹患リスクが1.75倍に上がることがわかっています。
引用:多目的コホート研究(JPHC Study)飲酒と乳がん罹患との関係についてを一部改変
これらの原因の1つには、二日酔いの原因物質のアセトアルデヒドが関わっていることが考えられています。
アセトアルデヒドは体にとって毒です。そして、アセトアルデヒドは頭痛や吐き気を引き起こすだけでなく、発がん性もあると考えられているのです。
お酒を飲みすぎると肝臓に負担がかかってしまい、肝臓がんになりやすくなることは知っている人は多いかもしれません。しかし、肝臓がん以外にも、飲酒との関連が報告されているがんが、いくつもあることも知っておく必要があるでしょう。
血の塊が血管に詰まることにより、脳梗塞や心筋梗塞が起きる
お酒を飲むとトイレに行く回数が増える人は多いと思います。また、居酒屋のトイレの前に、何人か順番待ちで並んでいるのを見たことはないでしょうか。
これは、アルコールに尿の量を増やす作用があるためです。アルコールは体内に吸収されると脳に働きかけて、尿の量を調節しているホルモンの量を減らすように働きます。その結果、尿の量が増えてしまうのです。
尿の量が増えると体の中の水分量が減るので、体が脱水状態になります。
体が脱水状態になると血液の中の水分量が減ってしまいます。その結果、血の塊ができやすくなってしまうのです。
カレーのルーを作った翌日に温めるときに、温めながらかき混ぜても、なかなか混ざらないと思います。このときに、少し水を加えてやるとかなり混ぜやすくなります。水分量が多いほうが流れはスムーズになります。
カレーのルーと同じようなことが血液にも当てはまります。脱水状態のときは血液がドロドロになっています。そのようなときは、血液中の成分が固まりやすくなっています。具体的には、全身に酸素を運ぶ働きをしている赤血球が塊になってしまいます。
赤血球が塊になってしまい、その塊が脳の血管に詰まってしまうと脳梗塞になります。脳梗塞になると、詰まった部分より先に血液が流れなく、貧血状態(脳貧血)になってしまいます。
脳梗塞になると、最初は言葉が出にくくなったり、手足の感覚が麻痺したりします。そして進行すると意識障害も起きるので、早急に治療する必要があります。
脳梗塞になると体の一部が麻痺をしてしまうなどの後遺症が残ることが多いです。芸能人や元スポーツ選手が脳梗塞になって、手足が不自由になっている映像を見たことがある人もいると思います。
そして、脳梗塞になってそのまま放っておくと、最悪の場合は、命の危険にさらされるようなこともあります。
また、血の塊が心臓の細い血管に詰まると心筋梗塞になります。心筋梗塞も脳梗塞と同じように、詰まった部分よりも先に血液が流れなくなるので、心臓が貧血状態になります。
心筋梗塞になると、激しい胸の痛みに襲われます。そして心筋梗塞も、そのまま治療しないで放っておくと命に関わる病気です。
このように、血の塊が血管に詰まると病気は、危険な状態になることがあります。
脳への影響
アルコールを飲んだ影響は脳にも現れます。代表的なものはビタミンB1が不足することによる、ウェルニッケ脳症とコルサコフ症候群です。
・ウェルニッケ脳症
アルコールとアセトアルデヒドの分解のときには、ビタミンB1が消費されます。したがって、お酒を飲みすぎるとビタミンB1が不足します。
実際にドラッグストアでは、お酒を飲む人向けのサプリメントとして、以下のようなビタミンB1が含まれるものが販売されています。
普通の食生活を送っていて、ビタミンB1が不足することはまずありません。栄養のバランスが悪い食事をしていたり、飲酒によってビタミンB1が消費されたりすることを繰り返すことで不足してしまうことがあります。
ウェルニッケ脳症はビタミンB1が不足することによって起きる病気です。ウェルニッケ脳症になると、眼球の動きに影響が現れたり、意識障害が起きたりします。重症化すると昏睡状態にもなる病気です。
・コルサコフ症候群
ビタミンB1が不足すると記憶力の低下が起きることがあります。この状態をコルサコフ症候群と呼びます。具体的には、脳の中で記憶に関わる海馬が萎縮してしまいます。
海馬が萎縮する病気の1つに認知症があります。認知症になると新しい記憶を獲得することが難しくなります。
私は薬剤師として働いているので、日頃から患者さんに薬の説明をしています。時々認知症の患者さんに薬の説明をすることがありますが、認知症の患者さんは何度同じことを説明しても理解できていません。例えば、「この薬は糖尿病の薬です」と説明して、その直後に確認しても、全く答えられないことも珍しくありません。
このように、飲酒を繰り返すことで、ビタミンB1が不足してしまい、ウェルニッケ脳症やコルサコフ症候群が起きることがあります。
アルコール依存症
あなたの身近にアルコール依存症の人はいるでしょうか。私が働いている病院にもアルコール依存症の患者さんが緊急入院になることがあります。
そのような患者さんの多くが、食事を摂らなくて、お酒を食事の代わりにしています。その結果、気持ちが悪い、食事が食べられなくなったなどの状態になってしまい、入院になります。症状があまりにもひどいと、アルコール依存症治療の専門医がいる病院に転院になることもあります。
アルコール依存症になると、心も体もボロボロになり、家族の関係にも影響が出てしまうこともある病気です。知り合いの医師から聞いた話では、包丁を持って「酒を買ってこい!!」と言いながら、家族を追いかけ回すような人もいるそうです。
アルコール依存症は、複雑な要因が関わっていると言われます。一般的には、アルコールの摂取量が徐々に増えることによって、アルコール依存症になると言われています。
アルコールの摂取量が増える原因は、同じ量のアルコールを飲んでも、酔いを感じにくくなるためです。これを「耐性」と言います。
耐性ができると、同じくらい酔うために必要なお酒の量が増えます。これを繰り返すことで、お酒の量が増え、最終的にはアルコール依存症になってしまいます。
アルコール依存症になっているかどうかのチェックは、いろいろな方法でできます。そのなかの1つに、WHO(世界保健機関)作成したものがあります。インターネットから、ここにアクセスし、質問に10個答えるだけで、簡単にチェックできます。チェックシートの画面を下に示しています。
なお、私は下に示すように「中等度の問題飲酒」という結果でした。
私はアルコール依存症とは無縁だと思っていたので、結果は意外なものでした。ここ何ヶ月かお酒をたくさん飲む場面が多かったことが影響しているのではと思っていますが、注意しないといけないと感じています。
アルコール依存症は少しでも早く見つめることで、立ち直るのも圧倒的に早くなります。アルコールに対して耐性ができ始めると、アルコール依存症の初期症状の可能性もあります。不安な人は一度チェックしてみてもよいでしょう。
適量のお酒を飲むことで死亡率は下がる
「酒は百薬の長」と呼ばれているのを知っている人は多いと思います。お酒を飲んだら健康に暮らすことができると思ってお酒を飲んでいる人もいるでしょう。
先ほどは、お酒を飲みすぎることでなりやすくなる病気があることを説明しました。ところが、お酒を飲むことで、死亡率自体は下がることが明らかになっています。しかし、これには条件があります。それは、「適量」のお酒を飲んだ場合の死亡率は低下するというものです。
実際に報告されているデータを下に載せています。このグラフの縦軸の「相対リスク」は「死亡率」を表しています。
少量のアルコールを飲む場合が、全くお酒を飲まない場合よりも死亡率がわずかですが下がっているのがわかると思います。先ほどのがんの発生率の表においても、一部のがんは、少量の飲酒であれば発生率が下がっています。
その一方で、飲む量が増えると死亡率が上昇しており、女性の場合は、 1日当たり20g以上飲むと、全く飲まない人よりも死亡率が高くなっています。なお、1日当たり20gのアルコールは、アルコール度数5%のビールであれば約500mL相当です。
晩酌で毎日ビール500mLというのは正直少ないと感じるでしょう。お酒に弱い私でも、晩酌のときは350mLの缶ビールを2本は飲みます。飲み会に行くと、生ビールを4,5杯は飲むので、500mLは遥かに超えてしまいます。
そこで大切なのは「休肝日」を設けることです。
毎日20g以上のアルコールを飲み続けると、先ほどのグラフからもわかるように、死亡率は上がっていきます。休肝日を設けることで、お酒を全く飲まない日ができます。そうすることで、1日当たりのアルコール摂取量の平均値は下がります。
実際に身近な医師に休肝日について質問をすると以下のような返答でした。
そもそも、肝臓の病気がある人は絶対にお酒を飲んではいけない。ただ、多くの人は禁酒を勧めても無視して飲んでいる。
このように、お酒は自分の体の状態を見極めながら飲む必要があります。
お酒を飲むことで死亡率は低下します。しかし、あくまで適量を飲むことが条件となります。
まとめ
ここでは、二日酔いになるほどの飲酒を繰り返すことで起きる可能性がある病気について説明しました。
お酒を一度飲みすぎたくらいでは、大きな病気になることはありません。しかし、何度も繰り返すことで、アルコールやアセトアルデヒドを分解する肝臓にダメージが蓄積してしまいます。
そして、アルコールを飲み続けることによって、口腔・咽頭がん、食道がん、大腸がん、乳がんなどの発生率が高くなることが報告されています。この原因としては、二日酔いの原因物質のアセトアルデヒドが関わっていることが考えられています。
また、アルコールの影響で脱水状態になると、血管内に血の塊ができやすくなり、脳梗塞や、心筋梗塞になりやすくなります。
このように、アルコールはいろいろな病気になりやすくなる要因なります。
その一方で、適量を摂取することは死亡率を下げることがわかっています。当然のように、お酒を飲みすぎる日が続くと、上記のような病気になりやすくなります。毎日お酒を飲んでいる人は、休肝日を設けながら、身体に負担がかからないような工夫をする必要があります。