あなたは普段トイレに行って、自分の尿の状態を確認していますか? 私は医療従事者ですが、確認することはほとんどありません。
何気なく自分の尿を見たときに「今日は色が濃い」「思ったよりも量が少ない」などを感じることはあります。しかし、そのような状態が続くことはないので、普段は自分の尿の状態をあまり気にしていません。
実は、お酒を飲むと尿の状態に影響が出ます。例えば、お酒を飲むと普段よりトイレに行く回数が増えると思います。ほかにもお酒を飲んだときやその翌日には、さまざまな影響が現れることが知られています。
ここでは、二日酔いのときに尿にどのような影響が出ているかについて説明していきます。
もくじ
二日酔いのときは、尿の量、色、臭いなどに影響が現れる
お酒を飲んだ翌日には、尿にさまざまな影響が出ます。尿にどのような影響が出るかを説明する前に、まずは、二日酔いのときの体の状態について説明します。
二日酔いのときは体が脱水になっている
お酒を飲んでいるときは、日中と比べてトイレに行く回数が増えると思います。私は居酒屋でお酒を飲むと、1時間に1回はトイレに行くようになります。
これは、お酒に含まれるアルコールに、尿の量を増やす作用があるためです。お酒を飲むと、アルコールが脳に作用して、尿の量を調節するホルモンを減らしてしまいます。その結果、尿の量が増えます。
尿の量が増えると、体の中の水分が減ってしまうので、体は脱水状態になります。二日酔いの日の朝は、普段よりも喉が乾いていないでしょうか。これは、体の中の水分が減ってしまっているために、喉が乾いているのです。
このように、お酒をたくさん飲んだ次の日の朝は体が脱水状態になっています。
脱水になると、尿の量が減り、色、臭いが変わる
二日酔いになると、体が脱水状態になることを説明しました。実は、この脱水の影響で、尿に以下のような影響が現れます。
- 量が減る
- 色が濃くなる
- 臭いがきつく感じる
続いて、これらについて詳細の説明をしていきます。
・量が減る
体の中が脱水になると、人間の体は水分を体の中に保持しようとします。なぜなら、そのまま尿を出し続けると、脱水がどんどん悪化してしまうからです。水分を保持しようとすることで、尿の量が減ってしまいます。
私は二日酔いの朝に尿を出すと、「思ったよりも尿の量が少ない」と感じることがあります。あなたも普段は気にしていないかもしれませんが、改めて比べてみると少なくなっていると思います。これは体が脱水になっている影響です。
・色が濃くなる
あなたは尿をするときに、尿の色を確認しているでしょうか? 私はあまりじっくりと見ませんが、明らかに変な色ではないかくらいは無意識に確認しています。
ほとんどの場合は、尿の色は無色〜淡黄色だと思います。やや黄色なのは、血液中に含まれる黄色の成分が排泄されるためであり、正常な状態です。
お酒を飲んだ翌日に尿の色を確認すると、明らかに黄色が濃くなっており、茶色っぽく見えることもあると思います。実は、これも脱水の影響を受けています。
脱水になると、体の中に水分を保持しようとするために、尿に含まれる水分量が減ります。
そもそも尿は、体の中で必要なくなった老廃物を体の外に出す役割があります。二日酔いになっても、体内の老廃物はちゃんと排泄しないといけないので、いつも通りに老廃物は排泄されます。
そして、老廃物の中には、先ほど説明した、尿を黄色にしている成分も含まれます。
以上のことから、二日酔いのときは、老廃物が濃縮されてしまい、結果的に色が濃くなるのです。
下に尿の色の見本を示しています。
引用:月刊Medical Technology別冊 カラーアトラス尿検査
一番左が正常な尿の色です。お酒を飲んでいるときは尿の量が増えるので、2番目のようにほぼ無色になることもあります。そして、二日酔いのときは、尿が濃縮されているので、一番右のような黄褐色になります。
このように、お酒を飲んだ次の日は、体が脱水になっている影響で、尿の色が濃くなることがあります。
・臭いがきつく感じる
お酒を飲んだ次の日に尿をすると、普段はしない独特の臭いがすることがあると思います。私は日本酒などを大量に飲んだ翌日に「これは何か悪いものが体にあるのではないか」と思うくらい変な臭いがしたことがあります。
そして、この尿の臭いがきつくなるのも、脱水が影響しています。
そもそも、尿には臭いがあります。個人差もあり、日によって違いはありますが、尿は無臭ではありません。そして二日酔いのときは、尿が脱水の影響を受けて濃くなっています。このような影響で、臭いがきつく感じるようになるのです。
私の知り合いの泌尿器科の医師に話を聞くと、以下のような返答がありました。
「尿がくさい」ということで外来に来る人は多いです。しかし、そもそも尿はくさいものなので、くさいこと自体は問題ではありません。
二日酔いの場合は、脱水で尿が濃くなってしまっていることが影響している可能性が高いです。したがって、脱水が改善されれば、臭いは自然と元に戻ります。
あと、アルコールはほとんどが肝臓で分解されます。尿の中に排出される量はほとんどないので、尿からアルコールの臭いがすることはないでしょう。
このように、二日酔いのときは尿の臭いがきつく感じることもありますが、ほとんどの場合は気にしなくても大丈夫です。
濃縮された尿は、刺激が強くなるので、尿意を感じやすくなる
二日酔いのときに尿意を感じてトイレに行くと、思ったよりも尿が出なかった経験はないでしょうか。ここにも尿が濃縮されたことによる影響が現れています。
脱水のときに尿が濃縮されると、尿に含まれるいろいろな成分の濃度が濃くなります。実は、通常であればほとんど影響がないものでも、濃縮されることで刺激を与えてしまうようになることがあります。
この刺激が、尿が溜まっている膀胱から脳に伝わって、「尿を出さないといけない」という刺激に変わります。その結果、濃い尿が少量しか溜まっていないにも関わらず、尿意を感じるようになり、トイレに行きたくなります。
下に、尿の濃さによって、尿意がどのように変わるかをまとめています。
まず、正常時は、尿が少し膀胱に溜まっても、膀胱はほとんど刺激されないので、尿意は感じません(No.1)。そこで、尿が膀胱に溜まってくると、膀胱への刺激が強くなり、尿意を感じるようになります(No.2)。
二日酔いのときは尿が濃縮されているので、膀胱への刺激は強くなっています。その結果、あまり量が溜まっていなくても、尿意を感じるようになり、トイレに行きたくなるのです(No.3)。
このように、二日酔いのときにトイレに行ってもあまり尿が出ないのは、尿が濃いことも影響しています。
お酒を飲んだ翌日に尿検査を受けても大丈夫か
会社で働いていると、1年に1回は健康診断を受けます。お酒をよく飲む人であれば、肝機能や、尿酸値を気にしている人は多いと思います。健康診断の何日か前だけ禁酒をしている人もいるでしょう。
健康診断には血液検査以外にも、レントゲン、心電図などいろいろな検査をしますが、そのなかの1つに尿検査があります。
先ほど、二日酔いのときは脱水によって尿が濃縮されている話をしました。では、二日酔いのときに尿検査を受けると、検査結果に影響が出るのでしょうか。
前日にお酒を飲んだことによって、尿検査の結果が異常値になることがある
前の章で、お酒を飲むと、翌日は体が脱水になってしまい、尿が濃縮されることを説明しました。実は、この尿が濃縮されることで、尿検査の結果に影響が現れることがあります。
具体的には、尿に含まれるタンパク質(尿タンパク)の項目で引っかかることがあります。
通常であれば、タンパク質は尿の中にはごく微量にしか含まれません。私が働いている病院では、尿の中のタンパク質の濃度が15mg/dL以下であれば正常と判定しています。
ここで重要なのは、尿タンパクは、尿の中に含まれるタンパク質の量ではなく濃度で正常かどうかを判定していることです。
脱水によって尿が濃くなると、尿の中に含まれている成分は、通常時と比べて濃度が高くなります。その結果、実際に含まれている量自体は普段と同じでも、濃度が高いために異常値と判定されることがあるのです。
このように、お酒を飲んだ翌日は、脱水の影響が尿検査の結果に現れることがあります。病院によっては、以下のように、ホームページに尿検査前日の飲酒は控えるように記載しているところもあります。
尿検査の前日に飲酒をしても、病院に飲酒したことがバレることは基本的にはありません。しかし、検査結果に影響が出ることもあるので、尿検査を受ける前の日は、お酒を飲むのは控えた方がよいです。
尿が泡立ちやすいことと、尿検査の結果は関係ない
あなたは知り合いや家族と「オシッコをしたら泡立つけど問題ないか」という話をしたことはありますか? 私は病院で働いていることもあり、患者さんや家族からこのような質問をときどきされます。
この疑問について、まず結論をいうと、「尿の泡立ちと尿検査の結果は直接関係ない」になります。
尿が泡立つのは、以下のような場合が考えられます。
- 尿が濃い
- 尿にタンパク質が含まれている
二日酔いのときは尿が濃いです。尿が濃くなっているということは、尿の粘度が高くなっています。したがって、このようなときは、尿が泡立ちやすい状態といえます。
また、タンパク質が尿に含まれても泡立ちやすくなると言われています。しかし、泌尿器科の医師に聞くと、以下のような返答がありました。
確かに、タンパク質が尿に含まれていると、尿が泡立つことはあります。しかし、これらが含まれていても、尿が泡立たない人もいます。そして、タンパク質が尿に含まれていなくても、尿が泡立つ人もいます。
そもそも泡立ちやすいかどうかは、尿の状態だけでは決まりません。トイレの形などの影響も大きく受けます。したがって、「尿が泡立つ=尿が異常」とは限りません。
一番よくないのは、尿が泡立たないから、自分の尿は正常だと思うことです。
今はわざわざ病院に行かなくても、尿にタンパク質が含まれているかの検査はできます。ドラッグストアで売られている以下のような試験紙を使うことで、自宅でも簡単にチェックすることができます。
尿の状態で体に異常があるかを心配することは大切なことですが、検査をすることなく自己判断をしないようにしましょう。
まとめ
ここでは、二日酔いのときに尿にどのような影響が出ているかについて説明しました。
二日酔いのときは体が脱水状態になっています。その影響で尿が濃くなり、尿量の減少、色が濃くなる、臭いがきつく感じるなどの変化が現れます。
これらの原因は脱水なので、脱水が改善すれば、尿の状態も自然と元に戻ります。
また、このようなときに尿検査を受けると、尿が濃縮されているために、尿に含まれるタンパク質の項目で引っかかることがあります。尿検査を受ける前の日はお酒を控えた方がよいでしょう。
そして、脱水になると尿の状態に影響が出るだけでなく、倦怠感や吐き気も起きることがあります。したがって、お酒を飲むときは、水分を多めに摂取するなどの脱水を予防するための工夫をするとよいでしょう。